開催概要
12月12日(日)14:00~17:00、栃木県小山市中央公民館において、対面とオンライン併用で「田んぼの生物・文化多様性2030プロジェクト キックオ集会」が開催されました。田んぼ10年の登録団体に加え、11日から小山市立文化センターで開催された「第20回全国菜の花サミットin小山」の参加者も交えて、2022年以降の活動について議論し、それぞれの決意を発表しました。集会参加者は、現地参加60名、オンライン参加30名でした。
田んぼの生物多様性向上10年プロジェクト
ラムネットJ前水田部会長の呉地正行さんがあいさつの中で、2020年までを期限に活動してきた「田んぼの生物多様性向上10年プロジェクト」の成果や課題を反映し、2030年までの活動計画案「田んぼの生物・文化多様性2030プロジェクト」をスタートさせることに至った経緯を報告しました。
基調講演 IUCN日本委員会 道家哲平さん
続いてIUCN日本委員会の道家哲平さんの基調講演では、これまでの生物多様性の劣化傾向を逆転させ、回復の軌道に乗せるために農業部門に何が期待されているかについて、CBDの新しい国際目標案やIPBES(生物多様性と生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム)が2020年に発表した「生物多様性と生態系サービスに関する地球規模評価報告書」等をもとに講演しました。「農業は生産性を高め、世界の食糧の安定供給を果たす努力をしてきたが、一方で農地への土地変更や農薬・化学肥料の過使用などで自然環境を劣化させ生物多様性の安定性を損なってきた。農業は、Nature Positive(自然にプラスの影響を与える)に改変すべきテーマの一つとされており、持続可能な農業への転換が急がれる。」等が語られました。
基調講演 国立環境研究所気候変動適応センター 西廣 淳さん
続いて国立環境研究所気候変動適応センターの西廣 淳さんの基調講演「気候変動と『田んぼシステム』」では、メタンの発生など、気候変動にマイナスの影響を及ぼすとされている水田が、実は管理の仕方によってはプラスの働きをすることなどが報告されました。田んぼの周辺・水源域の森林整備とセットで進めることによる脱炭素への貢献があり、さらに適応への貢献としては、耕作していない水田でも担いうる機能として、畔・水路・溜池などの「田んぼシステム」が重要で、これは洪水の流出の遅延、遊水地的機能を活用した水害リスク軽減や、多様な水域を活用した生物の避難場所確保等に役立っているとのことです。気候変動と人口減少が進みつつある現在、「自然に根差した社会」への転換が求められている。水害リスクが深刻でコメを主食にする日本では、「田んぼからの社会変革」が考えられる。伝統技術と未来技術を駆使し、多様な田んぼシステム(生産重視型水田~環境配慮型水田~粗放管理型休耕田)の機能を効果的に活用する工夫が重要と、まとめました。
田んぼの生物・文化多様性2030が目指すもの 金井裕さん
そのあと、ラムネットJ現水田部会長の金井裕さんが「田んぼの生物・文化多様性2030が目指すもの」として、現在作成中の2030年までの行動計画案について説明しました。会場で配布されたこの行動計画案は、会員・田んぼプロジェクト登録者・関連活動に取り組む人々との連携で実施して達成を目指すもので、計画案への意見を募集し、来年のCBD COP15終了後には案を確定させるためのワークショップを開催する予定であることなどを発表しました。
第3部 リレートーク「私はこれをやります!」
プログラム第3部リレートーク「私はこれをやります!」では、日本各地で田んぼの活動に取り組む農家・市民団体・企業・生協、自治体、さらに特別参加の篠原 孝さん(立憲民主党議員)・菜の花プロジェクト代表の藤井絢子さんなどが、それぞれの今後の活動について発表しました。
リレートーク最後は、壇上に勢ぞろいした豊岡市・佐渡市・大崎市・小山市・いすみ市のICEBA(生物の多様性を育む農業国際会議)開催自治体の担当者から、地域の生物多様性向上・有機農業と学校給食の有機米使用等について力強い発言が続き、今後の活動への期待が高まりました。
浅野市長が、『自治体だけでは目標達成はできない、ぜひ皆さんとの協働で実現させたいので、積極的な参加をお願いします。』と締めくくり、田んぼの生物・文化多様性2030プロジェクトがスタートしました。